弁当屋の四兄弟-令和二年版-
スプリングマンさん制作の舞台
『弁当屋の四兄弟-令和二年版-』観劇して参りました。
どこかの町の、今にも潰れそうなお弁当屋さんの、とある家族のお話。この家族に起こった物語の目撃者となれて、胸が暖まり充たされる帰り道でした。
家族だからこそ言葉にしにくい気持ちが沢山あって、本心を語るのは恥ずかしくて、近いからこそモヤモヤしちゃって、大好きだからうまくいかなくて、自分は二の次にされている気がして、どこかでズレた歯車を直すことも難しくて、甘えても許される『何か』が家族にはあって。
彼らが家族だから、こんなにも色々なことが難しい。それはあまりにも愛おしさを孕んでいました。
真面目に話すのはむずむずしちゃう清朝の気持ち、すーっごくわかる。
家族だからこそ何でも言い合える、がスムーズにできない源家のみんなが不器用で愛おしい。
お母さんが日毎に疲れていき、やがて家を出る。お父さんはどんどん体調を崩し、あっけなく他界する。その過程で、そこからの日々で、四兄弟各々がいろんな思いを抱えたからこそ今があるんだなと、一人一人の人生に思いを馳せてしまう。
物語が進むにつれてどんどんあの家族が愛おしくなっていました。
私は自分が長女なのもあり、信秀の『自分がなんとかしなきゃ』精神が痛いくらい刺ささりました。(信秀みたいに背負うものなんてないので同じにしちゃったら申し訳ないのですが)でもやっぱり親に何かあったら私が、って思ってしまうから信秀の気持ちには共感してしまいます。
自分には向いていないことだって分かっていながら、それでも立ち止まっていられない。
「清朝のために」と大義名分を掲げていた信秀には、ある種の依存があったと思います。そうすることで自分を保てたから。長子って、下の子が時に羨ましかったりするんですよね。自由だなぁ~~って。別に縛ってなんかいないのにね、誰も。お父さんがどれだけ自分の生き方をしていいって言ってくれても、「そこ」に進むのを選べない弱くて臆病な自分のことを「弟のため」を免罪符にして許していたのかなぁと思っています。本当に不器用で愛おしいです。
幼い清朝は、忙しなく動く父親の背中や、弁当の匂い、料理をする時の音、そういう世界を楽しんでいたんだろうな、大好きだったんだろうなって思い浮かぶ。
本当に大好きだったんだろうな、お父さんのこと。
お弁当を不味い、と吐き出した清朝の頭を思わず叩いてしまった信秀は、清朝にだけはそれを言われたくなかったんだろうなと思い至って泣いてしまいそう。
父親の愛を一身に受け、料理の才能もある。それなのに。それなのに、真っ直ぐ立とうとしない血の繋がらない弟。
人の心は難しいから、弟のことをこういう風に思っていたんだろうなって言いきれない。それくらい深く、複雑に入り組んでいるのでしょうね、長男から三男への気持ちは。嫉妬や羨望がありながらも、それでも自分がこいつを守らないといけない、って気持ちがあったからこそきっとここまで弁当屋を続けてこられたのかもしれない。
五月さんが出ていったのは瑠宇玖がまだ赤ちゃんの時。きっとお兄ちゃんは瑠宇玖にとってずーっと親代わりだった。
そう考えると「いつも清ばっかりだ」っていう不満を抱える彼を包み込んであげたくなりますよね。なんだか自分は後回しにされている気がする。世話焼きの長男と手のかかる三男、一人で立っていられる次男。そこで家族が完結している気がして、自分だけいつも蚊帳の外。自分を表現する方法をファッションに見出したのもわかる気がする。兄たちのやり取りを整理してあげる瑠宇玖を見ていて、この家の末っ子君は冷静に物事を俯瞰で見る術を学んできたんだろうなぁと愛おしくなりました。
そして、龍子守なるファンクラブが作られるほどの人気者だった龍盛。生徒会長になるくらいのしっかり者。
でも、家族に何も言わずハワイへ移住したあたりやっぱり『次男』なんだなぁと思った。それがすごーく好きです。しっかりしているけれど、自由なんですよね。長男だから・次男だから、なんて関係ないように育てたいのが親心なんだけどやっっっぱり子どもってそうやって育っていくんだよね。不思議だよね。
でも家を離れているからこそ、こうやって危機の時にはなんとか力になりたいと奮闘するところに、彼の立ち位置は『お兄ちゃん』側なんだなぁって思いました。
清朝がお弁当のおかずの何がダメなのか、どうしたらいいのかって話し出す瞬間がとても好きでした。
愛しいゲージがぐんぐん急上昇していった。だから余計にそれを素直に出せない、こんがらがった心の中が愛おしくて愛おしくてたまらなかった。自分のその才が家の力になるって絶対に分かっているのに、上手く噛み合わなくなった歯車をどう正していいかわからない。
愛おしかったなぁ全てが。何回愛おしいって言っても足りないし、言葉にする度に愛おしさが増すループ。
お噂はかねがねだった関修人さん。このどうしようもない三男坊が麦わら帽子被ってたの…?と驚きで目が離せなかったです完敗です。清朝の着ていたTシャツのカラフルなカメレオンはレオ・レオニの絵本『じぶんだけのいろ』の主人公ですよね。とっても大好きな絵本なので密かに嬉しかったです。
本当に四兄弟愛おしいんですけど(しつこい)、最後に作中で「おぉっ」て嬉しくなったところを書いて終わりたいと思います。
龍盛と清朝がずっとバチバチしていましたが、浮気発覚して情けない姿晒した龍盛がしょぼしょぼとお店に向かう時、清朝が面白そうについて行ったんですよね!それが本当に嬉しくて…!
「こいつにもダメなところあんじゃねーか!」って清朝側の心の壁がなくなった瞬間だなぁ~~兄弟歩み寄りの第一歩だ~!人間にとっては小さな一歩だが源家にとっては大きな一歩です!拍手!!!!って胸が熱くなりました。
かつて岩倉さんが語った四兄弟と、今の彼らに乖離がなかったことが本当に愛おしかったです。
変わらないもの。変わるもの。
変わらなかった彼らが、今まさに変わった彼らが、きっとこれからもっと変わっていく彼らが、心の底から愛おしい。
今日もどこかの町のお弁当屋さんに、ハワイのどこかに、源家のみんながいる。みんなそれぞれ自分の好きな生き方をして、笑っている。もう二度と会えない寂しさは、源家への愛おしさに変換して耐え忍んでいきたいと思います。
本当に素敵な時間でした。
ありがとうございました。